こんにちは、絵描きの京時ロメ(@kyotoki_OX)です。
今回は、XP-Penの「Magic Drawing Pad」をレビューします。
お絵かきタブレットといえばほぼiPad一択のような状況で、液タブメーカーがイラスト制作のためのAndroidタブレットを出してくれました。
こうして選択肢が増えるのは、一絵描きとしても嬉しく思います。
それはそれとして、iPad Air/Proに代わるお絵かきタブレットとなり得るのか、性能はコストに見合っているのか、皆さんも気になるところではないでしょうか。
実機でデザインや描き心地、処理性能を確認してみましたので、ぜひ参考にしていただけたら幸いです。
Magic Drawing Padのスペック&仕様
項目 | 詳細 |
---|---|
製品名 | Magic Drawing Pad |
メーカー | XPPen |
通常価格 | 84,900円 |
寸法 | 279 x 192 x 6.9 mm |
重量 | 599g |
画面サイズ | 12.2インチ |
解像度 | 2160 x 1440 |
アスペクト比 | 3:2 |
OS | Android 12 |
インターフェース | USB Type-C |
ペン | X3 Pro Pencil(16384筆圧レベル、EMR技術) |
色域比 | sRGB 109%、Adobe RGB 82%、NTSC 77% |
プロセッサー | CPU:オクタコアMT8771 GPU:ARM G57 MC2 |
メモリ | 8GB |
ストレージ | 256GB (+マイクロSDで最大512GB拡張可能) |
カメラ | リアカメラ:13MP インカメラ:8MP |
主な付属品 | X3 Pro Pencil、保護ケース、電源アダプター、充電ケーブル、替え芯(通常×4・フェルト×4)、グローブ |
仕様から分かる、高性能な部分とそれ以外の部分について以下にまとめました。
良い点
- ペンの対応筆圧レベル: X3 Proペンシルは16,384段階の筆圧検知を持っており、最新の液タブと同等の水準です。
- 充電不要ペン: X3 Proペンシルは、充電もBluetoothの設定も不要です。
- 画面の品質: 12.2インチのディスプレイには、紙のような描き心地を提供し、反射や指紋を軽減する「AGエッチング技術」が採用されています。
- ストレージ: 内蔵ストレージ256GBのモデルしか用意されていませんが、マイクロSDにより最大512GBまでコスパ良く拡張できます。
- バッテリー持続時間: 8,000mAhのバッテリーで、長時間の使用が可能です。
懸念点
- 処理性能: 8コアのMT8771プロセッサーと8GBのRAMは、趣味レベルのお絵かき用途には十分ですが、高解像度・多重レイヤーの作業では限界があります。
- カメラ: 13MPのリアカメラと8MPのフロントカメラは一般的なタブレット並みですが、特に優れているわけではありません。
- 傾き検知の非対応: X3 Proペンシルは傾き検知に対応していないため、プロフェッショナルな描画には限界があります。
- 色再現性: 色域比sRGB 109%、Adobe RGB 82%、NTSC 77%は一般的な用途では問題ありません。しかし色域「カバー率」についての言及がなく、プロフェッショナルな色管理が必要な仕事には不向きです。
- OSのバージョン: Android 12は比較的古いバージョンであり、これ以上セキュリティ更新や機能追加が行われないリスクがあります。

Android OSのアップデートは約3年とされているため、2021年10月にリリースされたAndroid 12がこれ以上更新される可能性は低いです。
Magic Drawing Pad 開封レビュー
まずは外箱から。白をベースにした、シンプルでポップなデザインに仕上がっています。

箱を開けると……さらに箱が出てきました。保護カバーも付いてくるんですね。

保護カバーの方を軽く見ていきます。ペンを格納できるのは良いですが、見た目はお世辞にも高級感があるとはいえません。

本体の外観はこちら。
表

裏

側面(クリック・タッチで拡大)




Magic Drawing Padの本体は、重厚感のあるカラーも相まって、全体的に上品なデザインで良いですね。
サイズ・重さは片手で抱えて作業できますが、30分以上の作業は厳しかったです。ただ持つのではなく安定させないといけないので、余計に疲れます。
携帯性という面では、3:2の画面比率で縦横どちらにも大きいため、細長いバッグを使っている場合は注意しましょう。

アクセサリ類の入っている箱には、側面にマイクロSDカードの挿入口を開けるためのピンが挟んでありました。
箱の中には2本指グローブやペン、クイックガイド、そして保証カードが入っています。

ペンは一般的なボールペンよりわずかに重い程度で、描画中に重さを感じることはありませんでした。ペン先が見やすいのも良かったです。

持ちやすさについては、ボタンの反対側が平らな面になっており、そこに親指を乗せるようにして持つと安定感がありました。
グローブは約18cm。日本人男性平均の私の手だとサイズが足りませんでした。

もう1つの箱には充電用のアダプター・ケーブルと、替え芯が入っていました。

ここはさすが液タブメーカーといったところでしょうか、純正でフェルト芯が用意されているタブレットは希少です。

内容物の紹介は以上となります。
次に本体の電源を入れてみました。
電源をオンにした後、XP-Penのロゴがデカデカと表示されます。

初回のセットアップは、他のAndroidデバイスと同じようにして進めていけば大丈夫でした。

Magic Drawing Padの描き心地・画面性能
実際に使ってみましたが、エントリーレベルの液タブに近い描き心地、という印象でした。
一般的なスマホ・タブレットと違って画面がツルツル滑ることもないですし、光の反射も抑えられています。
また、描いた時には紙のザラザラ感に近いフィードバックも感じられました。
傾き検知に対応していない点に目をつむれば、まさに「パソコン不要液タブ」と言っても過言ではない出来だと言えます。
筆圧検知
筆圧検知の精度は一般的な液タブと比べても遜色ないレベルです。ただし、16,384段階という数字には期待しすぎないようにしましょう。
これまで同様の液タブ・板タブを複数台レビューしてきましたが、8,192段階との違いを実感するのは非常に難しいです。
↓クリスタでの試し書き

↓アイビスペイントだと、線の抜きが上手く描画されませんでした。入きも抜きも同じ設定にしていたんですけどね……

ペン先の安定性
ペン先は、実作業に影響しない程度ですが、チャカチャカと動きます。最近の液タブ・板タブだともう少し安定していますね。
また、筆圧や角度によってはペンが軋む?コリッとする?ような感覚があったのが気になります。
傾き検知
ダメ元でクリスタの鉛筆ツールを使って試してみたところ、傾き検知は機能しませんでした。
仕様の記載通りなのでこの結果は目に見えていましたが、つくづく対応していてほしかったなあと思ってしまいます。
ペン先の精度・視差
画像・動画だとほとんど分からないレベルですが、ペンの傾き方やタッチ位置によってカーソルのズレがわずかに発生します。

私の使い方だと若干の違和感があったので、ペイントアプリ側の設定で位置調整することで解消しました。

また視差については、フルラミネーション加工がされているおかげで、ペン先と画面の間にガラス板が挟まっているような感覚はありませんでした。
発色・色の正確さ
発色は鮮やかで動画・画像観賞する分には良いですが、
- そもそも色の正確さが保証されていない(認証・色差・カバー率など)
- カラーモード(iPad Proでいうところのリファレンスモード)の設定が無い
のでプロフェッショナルな用途には向いていません。

色が綺麗に見えるのと、正確かどうかは別の話です
↓色域をsRGBに設定した液タブ(奥)と並べて比較してみましたが、Magic Drawing Padの方が鮮やかに見えます。
色域比sRGB109%というのはあながち間違いではないようです。

画面の反射・指紋の目立ちやすさ
さすがは液タブメーカーが作ったタブレットと言えます。
光の反射が少なく、指紋が目立ちにくい、お絵描きに最適な画面加工が施されていました。

Magic Drawing Padなら、わざわざ他社の出しているフィルムを買う必要はありません。
誤操作の発生防止
ペイントアプリの設定で「パームリジェクション」を有効にすると、指を使った描画がされないようにできます。
確かに手があたっても描画がされなくなりますが、描画以外の操作には依然として反応してしまうのが気になりました。
手を付けるたびにキャンバスが細かく拡大したり動いたりするストレスが、ボディブローのように効いてくるんですよね。

これって、スマホ・タブレットで描いている方にとってはあるあるなのでしょうか?
結局パームリジェクションの設定に頼るよりも、
- そもそも指のタッチに反応しないようにする(タブレットのメニューで「手書きタッチオン」を無効化)
- グローブを着けて作業する
といった方法を取るのが確実でした。
パフォーマンスとバッテリーの検証
本製品で懸念されている要素の1つに、プロセッサーの処理能力が挙げられます。
処理性能をアイビスペイントで検証したところ、1920×1080pxのレイヤー50枚程度ならスムーズに動作しましたが、1辺10000pxの高解像度レイヤーでは固まってしまいました。

趣味でお絵かきするくらいなら十分です
クリスタの3D素材についても問題なく扱えました。私が普段パソコンで操作している時と変わらない使用感でした。
ゲームも試してみました。「原神」の場合だと、最低設定にしないと警告がでてしまいます。本格的な3Dゲームを遊ぶにはスペック不足と言わざるを得ません。

バッテリー持続時間は、YouTube動画を流しっぱなしにすると約2時間で10%減少しました。
実際の使用では動画を1日中垂れ流しにすることはないでしょうし、使い込んでも2日は保つと思います。
充電速度は30%から100%になるまでを計測したところ、表示上は5時間50分でしたが、実際は約4時間で充電が完了しました。

ただこれは通常の充電時間なので、急速充電の場合はもう少し早く終わります。
その他機能の確認
顔認証・カメラ性能・ファイル共有・液タブ/板タブ接続の可否についても調べました。
顔認証
顔認証のスピードは非常に早いです。電源ボタンを入れた直後に完了しているので、ストレスなくロック解除できました。
カメラ性能
カメラ性能は素人目に見ても良いとは言えませんでした。
必要以上に彩度が高くなりますし、ピントもスムーズに合ってくれません。


ファイル共有
iPadやiPhoneには、近くのデバイスとファイルを共有できる「AirDrop」という機能があるのは有名です。
しかしAndroidデバイスにもQuick Shareという同等の機能があることは、あまり知られていません。
本製品でも必要な設定を行えば、Quick Shareを通して他のAndroid・Windowsデバイスとファイルのやり取りが可能です。


私自身、製品レビュー用に撮影した写真や動画を、パソコンへ送るのに使用しています。
板タブ・液タブとの接続
板タブ側がAndroidに対応していれば、接続して使用できます。

液タブの接続は、PCモードがあるのでもしかしたら……と思ったのですが、残念ながらできませんでした。
ちなみに普通の液タブのようにパソコンに繋いで使うこともできません。Magic Drawing PadはあくまでAndroidタブレットですからね。
Magic Drawing Padはどんな人におすすめ?
プロのイラストレーター向けには、サブ機として使うなら適していますが、傾き検知の非対応や高解像度に対応できない点が足を引っ張ります。
趣味のお絵かき用途には、1920×1080pxのキャンバスならレイヤー50枚程度に増やしても問題なく動作したので、十分快適といって差し支えないでしょう。
もちろん、子どものお絵かき用としても満足に使用可能です。OSがAndroid 12と古めでセキュリティ面が不安なら、インターネットを制限した上で使わせてあげましょう。
使用シーン | 評価 | 理由・コメント |
---|---|---|
プロのイラストレーター向け | △(サブ機・ラフを描く程度なら) | ラフスケッチやアイデアの記録には最適。ただし、傾き検知非対応や高解像度作業への対応力不足がプロ用途では足かせになる。 |
趣味のお絵かき用 | ◯ | フルHD(1920×1080px)キャンバスで問題なく描画可能。スマホからの移行ユーザーには特に快適で、外出先でのお絵かきに便利。 |
子ども向け | ◯ | 趣味用と同様、子どものお絵かき用としても十分に使える。セキュリティ面が不安ならインターネットの利用制限を。 |
価格と競合製品との比較
以下は、XPPen Magic Drawing Padと価格帯の近いiPadシリーズやGalaxy Tabシリーズ、中古のiPadなどとの比較表です。
価格や性能を基にコストパフォーマンスを比較するために作成しました。
製品名 | 価格 | 画面サイズ | 解像度 | OS | ペン | ストレージ |
---|---|---|---|---|---|---|
XPPen Magic Drawing Pad | 84,900円 | 12.2インチ | 2160 x 1440 | Android 12 | X3 Proペンシル | 256GB (+マイクロSD最大512GB) |
11インチ iPad Air (M3) | 98,800円~ +ペン代 | 11インチ | 2360 x 1640 | iPadOS 18 | Apple Pencil Pro/USB-C ※別売 | 128GB〜1TB |
iPad (A16) | 58,800円~ +ペン代 | 11インチ | 2360 x 1640 | iPadOS 18 | Apple Pencil 1/USB-C ※別売 | 128GB〜512GB |
iPad Pro 12.9インチ 第4世代(中古) | 71,800円〜91,800円* +ペン代 | 12.9インチ | 2732 x 2048 | iPadOS 14 | Apple Pencil 2/USB-C ※別売 | 128GB〜1TB |
iPad Pro 11インチ 第2世代(中古) | 62,800円〜84,800円* +ペン代 | 11インチ | 2388 x 1668 | iPadOS 14 | Apple Pencil 2/USB-C ※別売 | 128GB〜1TB |
Galaxy Tab S9 (Wi-Fi) | 124,799円 | 11インチ | 2560 x 1600 | Android 14 | Sペン | 128GB (+マイクロSD最大1TB) |
Galaxy Tab S9 FE (Wi-Fi) | 68,799円 | 10.9インチ | 2304 x 1440 | Android 14 | Sペン | 128GB (+マイクロSD最大1TB) |
*参考:イオシス
価格は新品のiPad Air+Apple Pencil Pro
やGalaxy Tab S9 (Wi-Fi)
と比べると安いですが、性能面が中途半端なせいでコストパフォーマンスはそこまで高くありません。
通常価格だと中古のiPad Pro+Apple Pencil 2が視野に入るのも立場を難しくしています。
セール時は6万円台で買えることがあるものの、それでもGalaxy Tab S9 FE (Wi-Fi)、表には記載していませんがXiaomi Pad 7
といった、より高性能な候補が依然として存在します。
ペンタブメーカーならではの特色をどれだけ重視するかが評価の分かれ目となるでしょう。
まとめ:せめてOSだけでも新しくしてほしい……!
描き心地に関しては液タブと遜色ないレベルで、ほどよい摩擦感もあり、中々良かったです。
傾き検知に対応していないのは残念ですが、使わない人にとっては大きな痛手にはならないでしょう。
一方、処理性能の低さやOSの古さといった無視できない短所が、この製品の足かせとなっており、より新しく性能の高い競合が優位になっている印象です。
充電・ペアリング不要のペン、優れた描き心地・画面加工と良い部分はあるため、重い作業をせず、OSの古さを気にしない人なら検討の余地があるかもしれません。
厳しめの評価になってしまいましたが、液タブメーカーがお絵かき特化のタブレットを出してくれたこと自体は前向きに受け止めているので、次世代のMagic Drawing Padに期待したいと思います。

傾き検知・処理性能・色再現性を向上させてより本格的にするか、最低限の性能にとどめて価格を重視するか。いずれにしても、OSは新しいものを使ってほしいです。